目次
- 1 その収支シミュレーション、信じて大丈夫?不動産会社の「甘い数字」を見抜く8つのチェックポイント
- 1.1 なぜ、彼らは「甘い数字」を提示するのか?
- 1.2 不動産会社の「甘い数字」を見抜く8つのチェックポイント
- 1.2.1 チェックポイント1:「家賃設定」の根拠は、本当にリアルか?
- 1.2.2 チェックポイント2:「家賃下落リスク」は、考慮されているか?
- 1.2.3 チェックポイント3:「空室率」の設定は、低すぎないか?
- 1.2.4 チェックポイント4:「広告費」や「原状回復費」は、計上されているか?
- 1.2.5 チェックポイント5:「大規模修繕積立金」は、十分な金額か?
- 1.2.6 チェックポイント6:「金利」は、上昇する前提になっているか?
- 1.2.7 チェックポイント7:その提案は、あなたの土地の「個性」を活かしているか?
- 1.2.8 チェックポイント8:その「サブリース(家賃保証)」の家賃は、いつまで保証されるのか?
- 1.3 まとめ:あなたは「経営者」。その自覚が、甘い数字を見抜く力になる
その収支シミュレーション、信じて大丈夫?不動産会社の「甘い数字」を見抜く8つのチェックポイント
土地活用の相談に訪れると、建築会社や不動産会社の営業マンは、必ずと言っていいほど、キラキラと輝く「収支シミュレーション」を提示してきます。
「先生の土地なら、これだけの家賃収入が見込めて、ローンを返しても、毎月これだけの利益が手元に残りますよ!」
その完璧な数字を前に、あなたは「これなら、私の未来は安泰だ…」と、胸をときめかせるかもしれません。しかし、その甘い数字を、鵜呑みにしてはいけません。
残念ながら、営業マンが提示する収支シミュレーションの中には、あなたに契約させることを目的とした、現実とはかけ離れた「甘い数字」が、巧みに紛れ込んでいるケースが少なくないのです。
この記事では、そんな“バラ色の未来予想図”に騙されないために、プロが必ずチェックする「8つのポイント」を徹底解説します。このチェックリストを使えば、あなたも「甘い数字」の裏に隠された不都合な真実を、簡単に見抜くことができるようになります。
なぜ、彼らは「甘い数字」を提示するのか?
まず、誤解しないでいただきたいのは、全ての営業マンが悪意を持っているわけではない、ということです。しかし、彼らの仕事は「アパートを建ててもらうこと」「契約を取ること」です。その目的を達成するために、どうしてもシミュレーションの数字は、楽観的な方向に偏りがちになるのです。
あなたの仕事は、その楽観的な数字を、より現実的な数字へと、あなた自身の手で修正していくことです。そのための武器が、これからご紹介する8つのチェックポイントです。
不動産会社の「甘い数字」を見抜く8つのチェックポイント
提示された収支シミュレーションシートを片手に、以下の項目を一つずつ、営業マンに鋭く、しかし冷静に質問していきましょう。
チェックポイント1:「家賃設定」の根拠は、本当にリアルか?
シミュレーションの全ての土台となるのが「想定家賃」です。ここが甘いと、全てが崩れます。
【ここを突っ込む!】
「この家賃設定の根拠は何ですか?周辺にある、築年数や間取りが同じような競合物件の、“現在の募集家賃”を一覧で見せてください」
【見抜くべき罠】
営業マンは、しばしば「新築プレミアム」と称して、相場より高い家賃を設定しがちです。しかし、そのプレミアムは数年で失われます。必ず、現実の競合物件の家賃と比較し、その設定が妥当かどうかを厳しくチェックしましょう。
チェックポイント2:「家賃下落リスク」は、考慮されているか?
建物は、時間と共に必ず古くなります。それに伴い、家賃も下落していくのが自然の摂理です。
【ここを突っ込む!】
「このシミュレーションでは、30年間、家賃が全く下がらない設定になっていますが、現実的ではありませんよね?例えば、2年ごとに1%ずつ家賃が下落すると仮定して、再計算してもらえますか?」
【見抜くべき罠】
長期のシミュレーションにも関わらず、家賃下落率が「0%」のままになっているのは、最も典型的で、最も甘い数字です。現実的な下落率を織り込むだけで、長期的な収支は大きく変わります。
チェックポイント3:「空室率」の設定は、低すぎないか?
アパート経営において、常に満室であり続けることは、ほぼ不可能です。
【ここを突っ込む!】
「空室率が5%で設定されていますが、このエリアの平均的な空室率は何%ですか?より厳しく見て、空室率を15%や20%に設定した場合のシミュレーションも見せてください」
【見抜くべき罠】
特に新築時は入居が決まりやすいため、空室率を不当に低く(2%〜5%程度)設定しがちです。しかし、長期的に見れば、10%以上の空室率は十分に起こり得ます。この数字を厳しく見ることで、経営の安全性が格段に高まります。
チェックポイント4:「広告費」や「原状回復費」は、計上されているか?
入居者が入れ替わる際には、必ずコストが発生します。
【ここを突っ込む!】
「この経費の項目に、新しい入居者を募集するための広告宣伝費(AD)や、退去後の原状回復費用(リフォーム代)が含まれていませんが、これは考慮しなくて良いのですか?」
【見抜くべき罠】
これらの費用は、数年に一度、まとまって発生するため、毎年の経費として見落とされがちです。しかし、長期的な収支に与える影響は小さくありません。必ず、これらの変動費も経費として計上するよう求めましょう。
チェックポイント5:「大規模修繕積立金」は、十分な金額か?
10年〜15年に一度、外壁塗装や屋上防水などの、数百万円規模の「大規模修繕」は避けられません。
【ここを突っ込む!】
「将来の大規模修繕のために、毎月いくら積み立てる計画になっていますか?その金額で、本当に将来の工事費用を賄えるという長期修繕計画書はありますか?」
【見抜くべき罠】
この積立金を全く計上していない、あるいは不当に安く見積もっているシミュレーションは、極めて危険です。将来、多額の追加融資を受けなければならなくなり、経営が一気に傾く原因となります。
チェックポイント6:「金利」は、上昇する前提になっているか?
変動金利でローンを組む場合、金利は将来上昇する可能性があります。
【ここを突っ込む!】
「現在の低金利を前提に計算されていますが、もし将来、金利が1%上昇した場合、毎月の返済額と手残りはどうなりますか?」
【見抜くべき罠】
「今の低金利が続く」という楽観的な前提だけで計画を立てるのは、非常に危険です。金利上昇のストレステストを行うことで、あなたの計画がどれだけのリスク耐性を持っているかが分かります。
チェックポイント7:その提案は、あなたの土地の「個性」を活かしているか?
これは、数字の裏側にある「戦略」を見抜くための、非常に重要な視点です。
【ここを突っ込む!】
「なぜ、私のこの土地に、この間取りのアパートが最適だとお考えですか?例えば、駐車場やトランクルームといった、他の活用法と比較した上での、このプランの優位性を教えてください」
【見抜くべき罠】
多くの建築会社は、自社で規格化された「売りやすい商品(テンプレプラン)」を持っています。あなたの土地の個性(形状、周辺環境、ターゲット層)を無視し、ただそのテンプレプランを当てはめているだけの提案は、危険信号です。本当にあなたのことを考えている担当者なら、複数の選択肢を提示し、なぜこのプランがベストなのかを、論理的に説明できるはずです。
チェックポイント8:その「サブリース(家賃保証)」の家賃は、いつまで保証されるのか?
「30年家賃保証」という言葉ほど、甘く危険な響きはありません。
【ここを突っ込む!】
「この保証家賃は、将来、減額される可能性について、契約書のどこに書かれていますか?家賃の見直しは何年ごとに行われるのですか?」
【見抜くべき罠】
「30年保証」とは、「30年間、同じ金額を保証する」という意味では決してありません。契約書には、必ず「賃料改定」の条項が含まれています。その条件を確認せずして、契約してはいけません。
まとめ:あなたは「経営者」。その自覚が、甘い数字を見抜く力になる
収支シミュレーションは、あなたの未来を予測する「水晶玉」ではありません。それは、あなたがこれから始める事業の「設計図」です。
営業マンは、あくまで「設計図を描く手伝いをしてくれる人」。その設計図の安全性を最終的に確認し、GOサインを出すのは、オーナーであり、経営者である、あなた自身なのです。
今回ご紹介した8つのチェックポイントは、そのための強力な「武器」となります。一つの会社の甘い数字を鵜呑みにせず、必ず複数の会社からプランを取り寄せ、このチェックリストを使って、その計画の強度を徹底的に比較検討してください。その地道な作業こそが、あなたの資産を、甘い罠から守るための、最も確実で、唯一の方法なのです。