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親が元気なうちに話しておきたい「実家じまい」入門|生前贈与と相続、どっちが得?
「いつまでも元気だと思っていた親が、最近少し足腰が弱くなってきた…」
「今はまだ大丈夫だけど、将来、実家が誰も住まない空き家になったらどうしよう…」
あなたも、そんな風に、離れて暮らす親や実家の将来に、漠然とした不安を感じ始めてはいませんか?
しかし、親が元気なうちは、お金や相続の話を切り出すのは、どこか縁起が悪く、ためらわれるものです。その気持ち、痛いほどわかります。ですが、その「先送り」こそが、将来あなたたち家族を、より大きな混乱と後悔に導いてしまうかもしれないのです。
この記事では、問題が起きてから慌てるのではなく、親子が共に元気なうちに、将来の準備を始める「実家じまい」という新しい考え方と、その具体的な選択肢である「生前贈与」と「相続」、結局どっちが得なのか?という究極の問いについて、徹底的に解説します。
「実家じまい」とは?なぜ「親が元気なうち」が絶対条件なのか
「実家じまい」とは、将来、実家が管理不能な「空き家」になったり、相続の際に家族が揉める「争続」になったりしないよう、親が元気で、判断力も体力もあるうちに、親子で一緒に将来の準備を始める、新しい終活のカタチです。
なぜ、「親が元気なうち」でなければならないのでしょうか。それは、もし親が認知症などで判断能力を失ってしまった場合、親名義の財産は、事実上「塩漬け」状態になってしまうからです。
- 預金が引き出せない:介護費用が必要になっても、親の口座からお金を下ろせなくなります。
- 不動産が売れない・活用できない:実家を売却して、介護施設の入居費用に充てようと思っても、親の意思確認ができないため、売買契約ができません。
- あらゆる契約ができない:リフォームの契約も、土地活用の契約も、全てストップしてしまいます。
成年後見制度という救済策もありますが、手続きは非常に煩雑です。そうなる前に、親子で未来について話し合っておくこと。それが、家族全員を守るための、最も愛情深い選択なのです。
究極の二択:「生前贈与」vs「相続」メリット・デメリットを徹底比較
実家を子供に引き継ぐ方法として、大きく分けて2つの選択肢があります。それぞれのメリット・デメリットを正しく理解し、あなたの家族に合った方法を見つけましょう。
選択肢1:親が元気なうちに渡す「生前贈与」
親が生きているうちに、子供へ実家の名義を変更する方法です。
【メリット】
- 渡す相手とタイミングを、親が自由に決められる:「家督を継ぐ長男に」「一番面倒を見てくれている長女に」など、親の意思を確実に反映できます。遺言書のように、後から他の兄弟に覆される心配もありません。
- 将来の相続財産を減らし、相続税を節税できる:先に贈与しておくことで、将来亡くなった時の財産総額を減らし、結果的に相続税の負担を軽くできる可能性があります。
【デメリット】
- 高額な「贈与税」がかかる:これが最大のネックです。贈与税は相続税よりも税率が非常に高く、例えば評価額2,000万円の実家を贈与した場合、数百万円という莫大な贈与税がかかる可能性があります。
- 不動産取得税や登録免許税も、相続より高い:名義変更の際にかかる税金も、相続の場合に比べて高額になります。
選択-肢2:親が亡くなってから渡す「相続」
親が亡くなった後、遺言書や遺産分割協議に基づいて、子供へ実家の名義を変更する方法です。
【メリット】
- 「贈与税」がかからない:相続なので、高額な贈与税の心配はありません。
- 強力な税金の特例が使える:相続税には「基礎控除」という大きな非課税枠があります。さらに、親と同居していた子供が実家を相続する場合などは、「小規模宅地等の特例」で土地の評価額を最大80%も減額できる、極めて強力な節税制度が使えます。
【デメリット】
- 親の意思が反映されにくい:遺言書がなければ、法定相続人全員での話し合い(遺産分割協議)が必要になり、親の「想い」とは裏腹に、兄弟間で揉める「争続」に発展するリスクがあります。
- 相続税の納税資金が必要になる:財産総額によっては、相続税がかかります。相続税は、原則として現金一括納付なので、不動産しか相続しなかった場合、納税資金の準備に窮する可能性があります。
【結論】結局、どっちが得なのか?
「生前贈与」と「相続」、それぞれのメリット・デメリットを見てきましたが、税金面だけを考えれば、多くの場合、「相続」の方が有利になるケースがほとんどです。
高額な贈与税を払ってまで生前贈与を急ぐよりも、相続税の強力な特例を活用した方が、トータルでの税負担は軽くなることが多いのです。
ただし、例外もあります。将来、その土地が大きく値上がりすることが確実に見込まれる場合などは、贈与税を払ってでも、安い評価額のうちに贈与してしまった方が得、というケースも考えられます。
【最も賢い選択とは?】
税金面での損得勘定も重要ですが、最も大切なのは、家族が揉めないことです。そのための最強のツールが「遺言書」です。
親が元気なうちに、公正証書遺言を作成してもらう。これにより、「誰に何を遺すか」という親の意思が法的に確定し、無用な「争続」を未然に防ぐことができます。その上で、税金面で最も有利な「相続」という形で、円満に資産を引き継ぐ。これが、多くのご家庭にとっての最適解と言えるでしょう。
まとめ:最高の「家じまい」は、親子の「対話」から始まる
「実家じまい」は、単なる手続きや節税の話ではありません。それは、親がこれまで築き上げてきた人生と資産に敬意を払い、その「想い」を、家族みんなでどう未来に繋いでいくかを話し合う、最高の「親子の対話」の機会です。
「お父さん、お母さんが大切にしてきたこの家、将来どうしたいと思ってる?」
親が元気でいてくれる、当たり前だと思っている「今」だからこそ、切り出せる話があります。まずは、そんな優しい一言から、あなたの家族の「実家じまい」を始めてみてはいかがでしょうか。その対話こそが、将来のあらゆるリスクから、あなたとあなたの大切な家族を守る、最も確実な第一歩となるはずです。