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相続した実家の売却にかかる税金は?知らないと損する「3,000万円特別控除」とは
兄弟との話し合いの末、相続した実家を「売却する」という結論に至ったあなた。肩の荷が下りて、ホッとしているかもしれませんね。
しかし、ここで安心してはいけません。不動産を売却して利益が出た場合、その利益に対して「譲渡所得税(じょうとしょとくぜい)」という、決して安くはない税金がかかることをご存知でしょうか?
「え、売ったお金がまるまる手に入るわけじゃないの!?」
そうです。しかし、ご安心ください。国には、相続した空き家を売却する人々の負担を軽くするための、非常に強力な“救済措置”が用意されています。それが、最大3,000万円までの利益を非課税にしてくれる「空き家特例」、通称**「3,000万円特別控除」**です。
この特例を知っているか、知らないか。その差は、あなたの手元に残るお金が、数百万円単位で変わってくるほどのインパクトを持っています。この記事では、あなたが損をしないために、この最強の節税制度の仕組みと、適用を受けるための条件について、徹底的に解説します。
【基本のキ】不動産売却にかかる「譲渡所得税」の計算方法
まず、どんな税金がかかるのか、その基本を理解しましょう。譲渡所得税は、以下の計算式で求められます。
(売却価格 − 取得費 − 譲渡費用) × 税率 = 譲渡所得税
- 取得費:その不動産を、親が昔いくらで買ったか、という購入代金のこと。
- 譲渡費用:売却のためにかかった経費(不動産会社への仲介手数料など)。
そして、税率は不動産の所有期間によって変わります。
- 短期譲渡所得(所有期間5年以下):約39%
- 長期譲渡所得(所有期間5年超):約20%
親から相続した場合、この「所有期間」は親が取得した日から引き継がれるため、ほとんどの場合、税率は約20%になります。
【ここが問題!】
問題は、親が何十年も前に購入した実家の場合、「取得費がいくらだったか、契約書などがなくて分からない」というケースが非常に多いことです。この場合、法律では「売却価格の5%を取得費とみなす」というルールになってしまいます。こうなると、利益(所得)が非常に大きく計算され、多額の税金がかかってしまうのです。
【救世主】利益を3,000万円まで“帳消し”にする「空き家特例」とは?
そんな絶望的な状況を救ってくれるのが、「3,000万円特別控除」です。この特例の適用を受けられれば、先ほどの計算式で出た利益(所得)から、最大で3,000万円を丸ごと差し引くことができます。
具体例で見る、その絶大な効果
例えば、あなたが相続した実家を4,000万円で売却し、取得費が不明だったとします。
【特例を使わない場合】
利益:4,000万円 −(4,000万円 × 5%)= 3,800万円
税額:3,800万円 × 20% = 760万円
なんと、760万円もの大金が、税金として消えてしまいます。
【特例を使った場合】
利益:3,800万円 − 3,000万円(控除額) = 800万円
税額:800万円 × 20% = 160万円
いかがでしょうか。この特例を使うだけで、納税額が600万円も安くなるのです。もし、利益が3,000万円以下であれば、納税額はゼロになります。まさに、知らないと大損する、強力すぎる制度なのです。
【最重要】特例を受けるための「7つのチェックリスト」
しかし、この強力な特例は、誰でも無条件に使えるわけではありません。以下の厳しい条件を、全てクリアする必要があります。
- 相続または遺贈により取得した家屋であること
売買などで手に入れた家は対象外です。 - 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること
いわゆる「旧耐震基準」の建物が対象です。 - 相続の開始直前において、被相続人(親など)が一人で居住していたこと
親が老人ホームなどに入居していた場合は、一定の条件を満たす必要があります。 - 相続時から売却時まで、事業用や貸付用、居住用として使われていないこと
相続してから一度も使っていない「空き家」であることが条件です。 - 売却代金が1億円以下であること
- 売却する家屋が、一定の耐震基準を満たしていること。または、家屋を解体して土地のみを売却すること
これが最もハードルの高い条件です。古い家をそのまま売る場合は、耐震リフォームが必要になります。そのため、多くの場合、家を解体して更地にしてから売却することで、この条件をクリアします。 - 相続開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
相続が発生してから、約3年10ヶ月というタイムリミットがあります。
このように、条件は非常に複雑です。自分だけで判断せず、必ず税理士や、この特例に詳しい不動産会社に相談しましょう。
まとめ:正しい知識が、あなたの手元に数百万円を残す
相続した実家の売却は、多くの人にとって、人生で一度きりの大きな取引です。そして、その取引には、あなたが思っている以上に、税金という重いコストが関わってきます。
今回ご紹介した「3,000万円特別控除」は、そんなあなたの負担を劇的に軽くしてくれる、国からのプレゼントのような制度です。しかし、そのプレゼントは、自ら「この制度を使いたいです」と手を挙げ、正しく確定申告をした人にしか、与えられません。
「知らなかった」の一言で、本来払う必要のなかった数百万円を失うことほど、悔しいことはありません。
実家の売却を決断したら、まずは不動産会社に査定を依頼すると同時に、「うちは、3,000万円控除の対象になりますか?」と、この特例について質問してみてください。その一言が、あなたの資産を守るための、最も重要な第一歩となるはずです。