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相続税対策としての土地活用は本当に有効か?メリット・デメリットと“やりすぎ”のリスク
「親から相続するこの土地、何もしなければ莫大な相続税がかかるらしい…」
「今のうちにアパートでも建てておけば、相続税が安くなるって本当?」
土地を所有する多くのご家庭で、一度は話題に上るであろう、相続税対策としての土地活用。特に、アパートやマンションを建てることで、相続税評価額を劇的に下げられるという話は、まるで「魔法の杖」のように聞こえるかもしれません。
しかし、その魔法には、本当に副作用はないのでしょうか?目先の節税効果だけに飛びついた結果、かえって家族を不幸にしてしまう「負の遺産」を残すことにはならないでしょうか。
この記事では、相続税対策としての土地活用が「本当に有効なのか」という本質的な問いに、その強力なメリットと、見落としてはならないデメリット、そして最も危険な“やりすぎ”のリスクまで、包み隠さず徹底解説します。
なぜ、土地活用で相続税が劇的に安くなるのか?そのカラクリ
まず、なぜアパートなどを建てると相続税が安くなるのか、その基本的な仕組み(カラクリ)を理解しましょう。ポイントは、現金や更地に比べて、「貸家」や「貸家が建つ土地」の相続税評価額が、法律上、非常に低く計算されるというルールにあります。
1.土地の評価額が下がる:「貸家建付地」の評価減
更地のまま相続する場合、その土地は時価に近い「路線価」で100%評価されます。しかし、その土地にアパートなどを建てて他人に貸し出すと、その土地は「貸家建付地(かしやたてつけち)」という扱いになり、評価額が約20%も減額されるのです。これは、「土地の所有者であっても、入居者がいる限り自由に使えない」という権利の制約が考慮されるためです。
2.建物の評価額が下がる:「貸家」の評価減
現金で1億円を相続すれば、評価額は当然1億円です。しかし、その1億円でアパートを建てて相続した場合、まず建物の固定資産税評価額は、建築費の5〜6割程度(約5,000〜6,000万円)に下がります。さらに、その建物を他人に貸している「貸家」であるため、そこからさらに30%が減額されます。結果として、1億円だった資産の評価額が、約3,500〜4,200万円にまで圧縮されるのです。
この2つの強力な評価減効果によって、相続税額を劇的に下げることが可能になります。
メリット:相続税対策だけではない、土地活用の恩恵
相続税対策としての土地活用には、税金以外のメリットもあります。
- 納税資金の確保:相続税は、原則として現金で一括納付しなければなりません。アパート経営などで得られる毎月の家賃収入は、そのための納税資金を準備する上で、大きな助けになります。
– 円満な遺産分割:不動産は、現金のように簡単に分割できません。「誰が実家を継ぐか」で、兄弟が争う「争続」は後を絶ちません。アパートという「収益を生む資産」に変えておくことで、家賃収入を分割するなど、公平で円満な遺産分割がしやすくなります。
– インフレ対策:現金の価値は、インフレによって目減りしていきます。家賃収入は、物価の上昇に合わせて上昇する傾向があるため、不動産はインフレに強い資産と言えます。
デメリット:節税の裏に潜む、事業としてのリスク
ここからが、最も重要な部分です。相続税対策という「入口」にだけ目を奪われ、その後の「出口」や「運営」のリスクを見落とすと、取り返しのつかないことになります。
- 空室・家賃下落のリスク:アパート経営は「事業」です。周辺に競合物件が増えたり、建物が老朽化したりすれば、空室が増え、家賃も下落します。相続税は節税できても、毎月赤字を垂れ流す「負動産」を家族に遺すことになっては、本末転倒です。
- 多額の借金というリスク:多くの場合、アパート建設には数千万円以上のローンを組みます。これは、家族に「資産」と同時に「多額の借金」を相続させることを意味します。団体信用生命保険に加入していれば、ローンはチャラになりますが、そうでなければ、返済の義務は相続人に引き継がれます。
– 修繕・管理の手間とコスト:建物は、時間と共に必ず劣化します。定期的なメンテナンスや、十数年後には大規模修繕も必要です。これらのコストを計画に入れておかないと、経営はすぐに立ち行かなくなります。
最も危険な“やりすぎ”のリスクとは?
相続税対策としての土地活用で、最も避けるべきなのが「相続税を下げること」自体が目的化してしまうことです。これを、私は“やりすぎ”のリスクと呼んでいます。
事例:節税のために建てすぎたアパートの悲劇
ある地主が、相続税対策のため、所有する土地に銀行から勧められるがまま、目一杯の規模のアパートを建てました。多額の借金をしたことで、確かに相続税評価額は大きく下がり、相続税はゼロになりました。
しかし、そのエリアの賃貸需要を無視した過大な供給だったため、完成後、アパートは空室だらけに。残された子供たちは、家賃収入ではローンを返済できず、自分たちの給料から毎月赤字を補填する日々。結局、相続税はゼロにできても、それ以上のマイナスを抱え込む「負の遺産」となってしまったのです。
【教訓】
相続税対策は、あくまで土地活用という「事業」が成功した上での「副次的な効果」と考えるべきです。事業として成り立たない土地活用は、たとえ相続税がゼロになっても、絶対にやってはいけません。
まとめ:本当の相続税対策とは、「家族を豊かにする資産」を遺すこと
相続税対策としての土地活用は、正しく行えば、あなたの家族を税金の重荷から救い、長期的な豊かさをもたらす、非常に有効な手段です。
しかし、その成否を分けるのは、目先の節税額の大きさではありません。その土地活用が、賃貸事業として、長期的に安定した収益を生み出し続けることができるのか。ただ、この一点に尽きます。
そのためには、一つの会社の「相続税対策プラン」を鵜呑みにするのではなく、必ず複数の専門家から、その土地の賃貸需要に基づいた、客観的で現実的な事業計画(収支シミュレーション)を取り寄せ、比較検討することが不可欠です。
本当の相続税対策とは、税金をゼロにすることではありません。あなたの子供たちが「この資産を遺してくれて、ありがとう」と心から思えるような、収益と幸せを生み出す「富動産」を遺すこと。その本質を、決して忘れないでください。