【土地活用の収支入門】手元にいくら残る?収入・経費・税金の全貌を徹底解説
「この土地でアパートを建てれば、年間家賃収入1,000万円も夢じゃないですよ!」
土地活用の営業マンから、そんな魅力的な言葉をかけられたら、誰だって心が躍りますよね。しかし、その「収入1,000万円」が、まるまるあなたの懐に入るわけでは決してない、ということをご存知でしょうか?
土地活用で本当に重要なのは、表面的な「収入」の大きさではありません。そこから様々な「経費」や「税金」が差し引かれ、最終的にあなたの銀行口座にいくら「手残り(キャッシュフロー)」があるのか。この一点に尽きます。
この記事では、土地活用におけるお金の流れ、「収入」「経費」「税金」という3つの要素の全貌を、初心者の方にも分かりやすく徹底解説します。この記事を読み終えれば、あなたは甘い営業トークに惑わされることなく、ご自身の土地活用のリアルな収支を冷静に見極めるための「武器」を手に入れることができるはずです。
先に結論:土地活用の手残りは、この「公式」で決まる
複雑に見える土地活用の収支計算も、その基本構造は非常にシンプルです。あなたの手元に残るお金は、以下の公式で計算できます。
総収入 −(経費 + ローン返済額 + 税金) = 年間の手残り(キャッシュフロー)
なんだ、簡単じゃないか、と思いましたか?その通りです。しかし、本当の難しさは、この公式の各項目に「何を」「いくら」当てはめて計算するのか、という部分にあります。それでは、各項目を一つずつ、詳しく見ていきましょう。
STEP1:【収入の部】あなたの懐に入ってくるお金
まずは、土地活用によって得られる「収入」です。代表的なものには以下のようなものがあります。
- 家賃収入:アパートやマンション、戸建賃貸の入居者から毎月受け取る賃料。最も基本的な収入源です。
- 駐車場収入:月極駐車場やコインパーキングの利用者から得られる収入。
- 地代収入:コンビニや店舗、あるいは太陽光発電事業者などに土地そのものを貸し出すことで得られる賃料。
- その他の一時的な収入:賃貸経営における「礼金」や「更新料」、「共益費」なども、会計上は収入として計上します。
【注意点】
アパート経営などの場合、常に満室であるとは限りません。事業計画を立てる際は、必ず「空室率」(例えば、家賃収入の10%は空室で見込んでおくなど)を考慮した、現実的な収入予測を立てることが極めて重要です。
STEP2:【経費の部】収入から差し引かれる、見落としがちなコスト
ここが、多くの初心者がつまずくポイントです。収入から差し引かれる「経費」には、あなたが思っている以上に多くの種類があります。これらを甘く見積もることが、失敗への第一歩です。
毎年かかってくる運営費用(ランニングコスト)
- ローン返済金利:借入金の「利息」部分は、経費として計上できます。(元本部分は経費になりません)
- 管理委託費:入居者募集や家賃回収などを不動産管理会社に委託する場合の手数料。一般的に家賃収入の5%前後が相場です。
- 修繕費:給湯器の交換やエアコンの修理など、突発的な設備の故障に対応するための費用。
- 固定資産税・都市計画税:土地と建物を所有している限り、毎年必ずかかる税金。
- 保険料:火災保険や地震保険、施設賠償責任保険など、万が一のリスクに備えるための費用。
- その他:共用部の電気代・水道代、入居者募集のための広告宣伝費、税理士費用など。
将来のために積み立てておくべきお金
- 大規模修繕積立金:10年〜15年に一度行う、外壁塗装や屋上防水などの大規模な修繕に備えるための積立金。これを計画に入れていないと、将来、数百万円単位の突然の出費に慌てることになります。
- 原状回復費用:入居者が退去した際に、部屋を綺麗に元に戻すための費用。
STEP3:【税金の部】利益に対してかかる「所得税・住民税」
収入から上記の経費を差し引いて、それでも利益が出た場合。その「儲け」に対して、さらに税金がかかります。これが「所得税」と「住民税」です。
不動産所得の計算方法
まず、年間の「不動産所得(=儲け)」を計算します。
総収入 − 必要経費 = 不動産所得
ここで重要なのは、ローンの返済額のうち、「元本」部分は経費にならないということです。経費になるのは「利息」部分だけ。これが、多くの人が混乱するポイントです。
サラリーマン大家の場合
もしあなたがサラリーマンなら、この不動産所得と、会社の給与所得を合算した金額に対して、所得税・住民税が課税されます。もし不動産所得が赤字になった場合は、給与所得と相殺(損益通算)することで、払いすぎた税金が戻ってくるという節税効果も期待できます。
【実践】だから「収入1,000万円」でも、手残りは意外と少ない
それでは、具体的な数字でシミュレーションしてみましょう。
【モデルケース】年間家賃収入1,000万円のアパート
- 総収入:1,000万円
- 経費合計:250万円(管理費、固定資産税、修繕費、保険料など)
- 年間ローン返済額:500万円(うち元本350万円、利息150万円)
1.まず、会計上の「利益(不動産所得)」を計算します。
1,000万円(収入) − 250万円(経費) − 150万円(ローン利息) = 600万円(不動産所得)
2.次に、この利益にかかる税金をざっくり計算します。
所得税・住民税が約25%かかると仮定すると、
600万円 × 25% = 150万円(税金)
3.最後に、年間の「手残り(キャッシュフロー)」を計算します。
1,000万円(収入) − 250万円(経費) − 500万円(ローン返済総額) − 150万円(税金) = 100万円(年間の手残り)
いかがでしょうか。年間収入1,000万円と聞くと、非常に儲かっているように見えますが、実際に自由に使える手残りのお金は、年間で100万円(月々約8.3万円)という結果になりました。これが、土地活用の収支のリアルです。
まとめ:本当の収益性は「手残り」で判断しよう
「収入」という言葉の響きに惑わされてはいけません。土地活用が成功かどうかは、ただ一点、「最終的に、あなたの手元にいくらのお金が残るのか」で決まります。
そして、その正確な「手残り」を予測するには、この記事で解説したような、収入、経費、税金の全てを盛り込んだ、緻密な収支シミュレーションが不可欠です。
もちろん、これは非常に専門的な作業です。だからこそ、一つの会社の甘いシミュレーションを鵜呑みにするのではなく、必ず複数の専門家から、詳細な事業計画書を取り寄せ、その数字の根拠までを厳しく比較検討することが、あなたの資産を守り、育てるための、最も賢明な第一歩となるのです。